【スキルアップ × 心理学】 #4 スキーマを使って「できること」を増やしていく

スキル/キャリア

昨今、人材育成や労働生産性の向上の観点で、会社組織における個人の能力開発はますます重要になってきていると思います。

また、能力開発は個人レベルにおいても、生活の質向上という観点で見ても大きなテーマとなるでしょう。

この記事では、主に臨床心理の場で使われる「スキーマ」という概念を用いて、多くの技能に転用可能な能力開発・スキルアップの方法について、例を上げながら説明していきます。

この記事は以下の方向けの内容になっています。
・部下の育成やコーチングに悩んでいる
・組織の
人材育成を改善したい
・心理学や認知の仕組みに興味がある
・スキルアップに関して漠然とした悩みを持っている

今回の記事では以下がゴールとなっています。
・人間の認知機能である「スキーマ」の重要性を理解
・「スキル」が心理学的にどのように体系づけられるかを理解

次回以降の更新では、今回の内容をもとにスキルアップの具体論や応用例などについて説明していきたいと思います。

ではさっそく、「スキーマ」について見ていきます。

スキルアップの鍵:スキーマ

スキーマとは?

スキーマとは、ある分野におけるまとまった知識や技能のことです。*1)

例えば、ある分野において
「話が通じる」
「要領がなんとなくわかる」
「コツが分かっている」
というのは「スキーマがある」という言い方をします。

つまりスキーマがあるという事は、スキルが使える形で自分の身になっている状態です。

補足として、スキーマはよく臨床心理の分野において、クライアントのメンタルケアに使われている概念です。

臨床では、クライアントのネガティブな物の見方を「スキーマ」として表現し、それを最適化していくセラピーが行われたりしています。

スキーマは各個人の経験に基づいて形作られていくので、その性質を能力開発や学習にも応用していきます。

スキーマの例 -車の運転-

スキーマを理解するために、比較的簡単な例として車の運転を挙げます。

「一時停止の標識を見たら、停止線で車を停止させる」
この慣れれば一見何でもない動作でも、実はスキーマを使って行われています。

一時停止する車

一時停止する為のスキーマとはどのようなものか? 動作の順番に沿って説明してみます

1. 状況の認識
まず一時停止の標識を視認します。
ここで人の脳内では、以下の認知活動が行われています

・想起
一時停止の標識を記憶から呼び起こす
・状況理解
一時停止の標識なので止まらなくてはならないと理解する
後続車など周囲の状況も見て、安全に停止できることを確認する


2. 停止の実行
・判断
現在のスピード、停止線までの距離、後続車との車間などを把握して、ブレーキを踏むタイミングを判断する
・行動
ブレーキ操作。ブレーキで止まるまでの確認もする

慣れていれば一見何気無い動作ですが、一時停止でも様々な技能を使っています。

このようにスキーマとは、やるべき事が正しい順序で記憶され、実行を可能にする仕組みです。

スキーマは狭義では、概念のまとまりと言われます(心理用語ではスクリプトと言う)。

ただ広義では
何らかの課題解決において必要な知識・技能のまとまりであり
認知活動(知覚・判断・想像・推論・記憶・理解など)を使って、課題をどのように実行するかを記述したものになります。

スキルがある=スキーマを豊富に持っている

仕事も勉強も、問題解決の連続になると思います。

そして、各々の解法であるスキーマを豊富に持っているほど、問題解決力や応用力が高まると言われています。*2)

例えば、数学の問題でも複数の考え方や解法が頭にあれば、試験でも正解は出しやすいでしょう。

仕事においても、顧客への電話対応について、様々な状況に対する応対方法が身についていれば、より信頼も得られるはずです。

言ってみれば、スキーマがたくさん有るというのは、能力が引き出しが多い状態を指します。

このような状態を目指すためにも、「スキーマをどのように形作ってまとまったスキルを得るか」というのが重要な課題定義になります。

スキル = スキーマの集合体

スキーマが沢山あれば良いですが、それらを体系づける事でまとまりも出てきます。

きちんと体系づける事で、以下のメリットも得られるでしょう。
・スキルの保有感が得られ、自信が増す
・スキルセットの見直しをしやすい
・伸び悩んだ際の改善ポイントを発見しやすい
・体系づける作業そのものが、知識の整理につながる

上記を踏まえた具体的な応用例は別途記事で説明したいと思いますが、
今回はスキルを体系づける方式について、見ていきたいと思います。

スキルは、スキーマの階層構造で整理できる

スキーマは階層構造になっており、各スキーマの集合体がスキルという捉え方ができます。

プレゼンテーションの例

まず事例として、プレゼンスキルについて見ていきます。

一番上位にプレゼンスキルがあり、
その下位には「スピーチ」や「スライド・プレゼン」スキル、さらに下層には「話し方」や「ジェスチャー」と位置付けられています。*3)

各ボックスがサブスキルであり、スキーマです。

複数のスキーマが統合され体系づけられることで、「スキルのまとまり」を意識することができます。

レゼンテーションスキルの図
出典:ベーシックステップ 株式会社
コミュニケーションの例

もう一つ例を見ていきます。
ここでは、コミュニケーションを「伝える」「受け取る」スキーマに分類し、それをさらに細かく分類しています。4)

ここの例ではシンプルな階層に加えて、
図にある「アサーション」「傾聴スキル」のように複数の体系でスキルが整理されることもあります。


Life and Mind+ 【図解】で解るコミュニケーション能力!効果的に高める8つの厳選スキル

色々な観点でスキーマを体系づけることで、組み合わせのバリエーションが広がり、応用性にも繋がっていきます

各スキーマは、技能と知識で成立する

上記では全体の体系について説明していきましたが、個別のスキーマ(=サブスキル)についても説明していきたいと思います。

技能・知識とは?

スキルというのは、「技能」と「知識」で構成されます。

技能
・そのスキルを実行する手順
・体や言語などを使って行うもの
・「実際にできるかどうか」であり、知識があってもできない場合は「技能がある」とはならない
・心理学的には「手続き型記憶」と言われる。

知識
・スキルを実行するのに必要な知識や概念、理論など
・スキル発揮には技能が第一だが、知識があることで応用力や思考の幅が増やせる
・心理学的には「宣言的型記憶」と言われる。
技能と知識の例: コミュニケーションスキルにおける「アサーション」

以下では、より技能と知識の習得例について具体的に見ていきます

事例:アサーションスキル。仕事において過剰な要求が来たときの対処法について

技能
① まず相手と仕事量の交渉をしたいが、罪悪感を強く感じてしまう。
② そこで自責の念を感じにくくする訓練を重ねて、交渉を切り出せるようなる
③ 妥協しつつも、相手の要求をある程度叶える姿勢を習得。
  話しながら相手の表情を読み取る訓練も重ねて、交渉の切り出しや会話テンポについてもスキルを身につけていった
④ 必要に応じてクッション言葉を使えるようにし、スムーズなコミュニケーションを実現できるようにした

知識
・コミュニケーションというのは、一方的ではなく双方向で行なっていくもの
   →上記②の自責の念を解消するための知識として活用
・アサーションというのは、双方が可能な限りwin-winになるような、最適解を探って提案するもの
   →上記③の相互利益を模索する姿勢に活用
・使えるクッション言葉「ご期待に沿えないのは残念ですが、…」「最善を尽くしますので…」
   →上記④に活用
技能と知識の例: プレゼンスキルにおける「話しの構成」

また、プレゼンテーションスキルについて「話しの構成」についても触れてみます。

事例:プレゼンテーションスキル。
会社で人事担当として、若手を対象とした研修のプレゼンをすることに。
そこで「話しの構成」のスキーマを習得・活用した例

技能
① まずは、プレゼンの「つかみ」で興味を持ってもらうために、「自社の強みを生かした研修企画」という題目で理論を展開する。

②仕事や日常での会話を通じて、「つかみ」を意識して話に興味を持ってもらう経験値を積んでいった

③ 次にその研修方針の根拠として、自社製品ラインナップや人材構成、企業風土、顧客からの評価の観点で、研修のポイントを丁寧に述べていく

④ ①②を踏まえて、具体例として研修プランを発表。
研修を行うことの費用対効果や副次的な効果も合わせて説明していく。
このように数段構えで論理を展開していくことで、内容の濃さと理解の度合いをアピールしていく

⑤ 結論として、最後の一押しに研修の意義を伝えてしめくくる。

知識
・プレゼンには「つかみ」が重要という点
  →上記①の前提知識として活用
・プレゼンの構成法として、Prep(結論→根拠→具体例→結論)というものがある
  →上記③〜⑤の展開は、Prepで構成した

まとめと次回予告

今回はまず、
・スキルを身につけるには、学習を通してスキーマを豊富に作っていくことが重要
・スキーマとは知識・技能のまとまりで、認知機能によって実行されるもの

という話をしました。

その上で
・スキルとは、スキーマの集合体で階層構造になっている
・各スキーマは技能と知識で成立する

という話をしました。

次回は、学習を通して実際にスキーマを形作っていく過程について説明していこうと思います。

参考リンク

1) 【SEVEN DEX POST】スキーマの解説
スキーマ・スクリプトを解説

2) 【技術評論社】教える技術
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784297116613

3) 【ベーシックステップ 株式会社】スキルマップ(プレゼンテーション)
http://basicstep.jp/?page_id=7

4) 【Life and Mind+ (ライフ&マインド)】スキルマップ(コミュニケーション)
https://life-and-mind.com/communication-ability-2088

5) 関連記事
・スキルアップ × 心理学 #1(NLPと心理学で理解)
https://mindhack-lab.com/skill/skillup-process-first/

・スキルアップ × 心理学 #2 -何から始めたら良いか分かる-
https://mindhack-lab.com/skill/skillup-process-second/

・スキルアップ × 心理学 #3 -対象を疑うことで理解を深める-
https://mindhack-lab.com/skill/skillup-process-doubt/

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