人間社会では、個人や集団で様々な「思い込み」が生じると言われています。
言いかえると、「固定観念」「先入観」「マインドセット」などが挙げらます。
よくビジネスや日常でも
- 先入観を持たずに考えてみよう
- 固定観念に囚われない方が良い
- マインドセットを変えるべき
と言われることが多いです。
このような問題に対処していくためには、社会心理学の前提知識が該当してくると思います。
「思い込み」を完全に排除することはできなくても、意識することで変わってくる、あるいは上手に利用できることもあると思います。
そこで今回は社会心理学の知識をもとに、様々な思い込みの種類や性質について見ていこうと思います。
なお、当記事は放送大学、「社会・集団・家族心理学」の、2章:対人認知とステレオタイプ、3章:原因帰属と社会的推論の要約を兼ねています。
「思い込み」の色々な種類 ー対人、仕事、判断ー
思い込みは様々な場面(対人関係、仕事やプライベートでの活動、物事の判断や選択)で発生します
心理学においては、こういった思い込みを「社会的推論」と定義しています。
社会的推論とは、人が社会集団の中で未知の問題を解決するために、既知の知識や経験を使うことです。
しかしそこに、情報や考えの偏りが起きること(バイアス)で、行動にエラーが生じることもあります。
以下では、どのような社会的推論やエラーがあるのかを紹介していきます。
中心特性と周辺特性
人格には様々な一面があります。
例えば、知的さや器用さ、真面目さ、注意深さなどなど。
- 中心特性
その中でも特に重視される特性のことで、「温かい」か「冷たいか」を指す。
後述する、周辺特性よりも非常に大きな影響を与える。ユーモアの有無も含まれることもある。 - 周辺特性
中心特性以外の、例えば注意深さや決断力の有無などを指す。
つまり、人の印象は中心特性によって左右されやすい、ということになります。
暗黙の性格理論
暗黙の性格理論とは、「社会的望ましさ」と「知的望ましさ」の2軸で、人の性格は分類されがちという認知の特徴のことです。
例えば図の右上の領域では、「真面目」と「信頼できる」と言う特性が配置されています。
誰かに「真面目」という印象を抱くと、同時に「信頼できる」印象も抱きやすいと言うのが、暗黙の性格理論です。
逆に、真面目という特性から、別領域の「社交的な」と言う性格の印象には、注目は行きにくくなります。
しかし、真面目で社交的なタイプの方もいると思います。
この理論からも、他人への印象というものは、偏りが生じやすいと言えます。
よく言われる「印象のギャップ」というのも、暗黙の性格理論で説明できる事なのかもしれません。
また、自他ともに色々な一面を見ていくためには、異なる領域の性格にも注目することが必要なのかもしれません。
ヒューリスティック ー難しく考えないための思考法ー
ヒューリスティックは、物事の判断に使用する手がかりのことです。
判断といのは一般的に多くの情報や思考を費やします。
そこで、できるだけ難しく考えないように、ヒューリスティックが使われやすいと言われます。
以下では2つを紹介しますが、必ずしもネガティブな要素ばかりではなく、性質を知れば様々な場面で応用が可能になってくるはずです。
代表性ヒューリスティック
世間一般で代表的な例を重視する傾向のことを「代表性ヒューリスティック」と言います。
- 血液型判断の例
血液型判断で性格を想像しやすいことも、代表性ヒューリスティックの例ですが、血液型と性格の関連性はないことが分かっています。 - 旅行での観光地名所をめぐる行動の例
慣れな土地を旅行する際に、とりあえず代表的な名所を回ろうとするものです。
人によって場所の好みは分かれてますが、土地勘のない場所では代表地を巡った方が、調べる手間が省けてきます。
利用可能性ヒューリスティック
世間の一般知識のみでなく、自分が印象に残っている記憶が判断材料になることもあり、これを利用可能性ヒューリスティックといいます。
- 過去の成功体験を盲信してしまう例
過去にプロジェクトで成功した時の仕事の進め方を、次のプロジェクトにも応用しやすいことです。
ですが本来は、過去のやり方を分析した上で、適切な対応をすることが必要になってくると思います。
偏見と差別の要因になるもの ーステレオタイプー
● ステレオタイプとは?
ステレオタイプとは、多くの人に浸透している固定観念や思い込みのこと。
〇〇といえば□□という形で表現されることが多いです。
社会には色々なタイプの人がいるので、
対人認知を簡略化させるために、型にはめてしまうことで、思考量を減らす働きが原因と言われています。
人の国籍や性別、血液型、職種、年齢といった基本的なプロフィールから当てはめられた知識が、ステレオタイプです。
そのため、ステレオタイプとは上記で紹介した代表性ヒューリスティックの対人版とも言えます。
またステレオタイプを元に、感情的な反応が伴うことを「偏見」、行動に移すことを「差別」になります。
● ステレオタイプがなぜできるのか?
ステレオタイプができる要因としては、他人や集団に対して、「こうあってほしい」という期待から生まれると言われています。
例えば、社会的地位が高い集団に対しては、「能力が高いが、性格が冷たい傾向がある」というステレオタイプが付きやすいと言われています。
これは、能力が高いのは認める代わりに、性格面では劣っていると捉えることで、自分の立場を守ろうとする働きからくるものです。
原因帰属バイアス ー原因を安易に求めやすい性質ー
社会的推論として、原因帰属バイアスというものが挙げられます。
これは、様々な出来事の原因を誤って別の対象に求めてしまう、あるいは過剰に求めてしまうことです。
このバイアスは、主に2つの性質によって起きると言われています
- 原因の確認を、考えるのが簡単なものに求めやすい(帰属しやすい)
- 自分の立場を守るために、原因を自分以外に求めやすい
前者は、内面的な要素よりも、外見的な要素を重視してしまう傾向(根本的な帰属のエラー)として現れます。
例えばクイズ番組の司会者は、番組での立ち振る舞いから、とても賢そうに見える(外見的要素)が、本人は答えを知っているだけで、しかも実際は回答者の方が知識がある(内面的要素)といった例です。
後者は、行為者ー観察者バイアスと言われるものがあります。
これは例えば、行為者(自分)がミスをした時には、周囲の状況(他人や運など)に原因を求めやすく、逆に他人のミスは本人の問題(性格や能力)に求めやすい傾向です。
行為者ー観察者バイアスによって、職場で人間関係のすれ違いが生じる原因にもなり得ます。
そのため、そういう「ものの味方の歪み」を前提にして、対人関係を意識していく必要が出てきます。
確証バイアス ー「思い込み」が生じる仕組み
ではこのような思い込み(社会的推論)が、どのような過程で出来上がるのかを見ていきます。
人は自分が元々持っている仮説を信じたいと思ったときに、都合の良い情報ばかりを集めていく性質があります。
これを「確証バイアス」と良い、情報や体験の取捨選択に偏りが生じる原因になるものです。
例えば、「大企業は安泰だ」という仮説が自分にある場合、それを肯定するようなニュースや情報にアクセスしたり、行動をしやすくなります。
逆にそれに反することには、アクセスしづらくなっていきます。
確証バイアスは心の防御反応とも言われ、今の自分の状態を肯定したいがために、起きてしまう現象です。
この働きで元々の仮説がさらに強化されていき、思い込みが強くなっていくのです。
「思い込み」によって、将来にどのような影響が出るのか?
では思い込みによって、実際にどのような影響が出るのか?
我々の実生活や将来に関わってくる内容になっていきます。
自己成就的予言
心理学においては、自己成就的予言というものが提唱されています。
「こうなるのではないか」と思って行動していると、事実と違った結果になる。ー つまり、思い込みが現実化する現象のことです。
例えば、受験で試験対策をすれば充分に合格圏内でも、本人が失敗すると思い込んだ場合(思い込み)があるとします。
有る事無い事を必要以上に悩んで時間を浪費してしまい、実際には失敗してしまう(現実化)ケースです。
またこれは個人だけではなく、社会集団でも発生します。
例えば、コロナ禍初期に日用品が不足するというデマ(思い込み)により、買い占めが起こり、結果として店頭から商品が無くなる(現実化)事象が発生しました。
さらに簡単な例だと、皆が不況だと思えば、より経済不況が強まってしまう、というのも、自己成就的予言の一種だと言われています。
この原理は、以下の流れで起きると言われています。
1) 事実と違った思い込みをする
2) 思い込みによって、行動が変わる
3) 行動によって結果も変わる
「思い込み」が行動に影響を及ぼす
人間が意識できるキャパには限界があるため、
「思い込んでいること」に意識が集中すれば、それに見合った情報や行動が選択されてしまうのです。
「こうなってしまうのではないか?」という思い込みによって、行動が型にはまってしまうと、可能性を狭める原因にもなるかもしれません。
一方で、例えば仕事のパフォーマンスや、対人関係などポジティブな側面でも起きると言えるでしょう。
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