前回の投稿では、心理的安全性の課題について、組織で個人が抱えがちな課題を上げました。
今回は個人ができる対策ということで、具体的に見ていこうと思います。
「クラフティング」により、心理的安全を確保する
クラフティングとは、業務・認知・人間関係の観点で、働く人が自ら仕事に対する工夫を加えることです。
ポイントは以下が挙げられます。
クラフティングのポイント
・個人個人が主体的に働きかけていくことで、仕事の質やあり方を見直すという視点
・可能な範囲で自分の周囲に心理的安全性を確保していく
クラフティングの種類
クラフティングには「作業」「認知」「人間関係」の3つの観点で、仕事に対する考え方が提案されています。*1)
作業クラフティング
作業クラフティングとは、作業に工夫を加え、仕事内容がより充実できるものにしていくことです。
以下でいくつか例を示します
作業クラフティングの実施例 (1) 不要作業の振り返り ・惰性的に行なっているタスクやルーティン作業を洗い出した ・目的が不明瞭なタスクの理解度を上げるため、運用した経緯や関連知識をインプットして整理した ・各作業についての目的や関連性などを整理した上で、必要性や改善点を検討した (2) 作業手順書のバージョンアップ ・手順書に従ってデータ入力作業をしてるが、熟達者とそうでない人で作業精度にばらつきがあった ・運用の工夫として、熟達者用の簡易手順書と、非熟達者用の詳細手順書に分けることで、作業速度を維持しつつ精度の向上を図った。 ・詳細手順書は新人のOJT用にも使えるように、具体的な説明と一般的な事務スキルを伝達できるような内容にした ・さらに、不要文言の削除・表現の修正・関連手順書の整備などの小改善を加え、バージョンアップ的な対応を行なった (3)システム開発作業のノウハウの状況共有の推進 ・システム開発において必要な業務知識が、部署内で上手く共有されていない現状に問題を感じている。 ・まずは、自分自身の専門業務についてドキュメント整備をした(ノウハウ・手順書・用語集などの統廃合、最新化など)。 ・社内で参照・編集・維持管理できるようするため、ドキュメント管理に関する勉強をした ・勉強で得た情報と、自身の専門業務の改善結果をもとに、要件定義チームや開発チームに文書の維持管理の手順を提案し、活用できるようにした
このように、作業に対する工夫を重ねていくことで、専門性を高めることができます。
専門性が高まると発言への説得力も上がり、心理的安全性を確保できる事にもつながっていきます。
認知クラフティング
認知クラフティングとは、主に以下のような考え方で、ワークエンゲージメント(仕事に対してポジティブで充実した心理状態)を上げていくものです
認知クラフティングのポイント
・仕事の目的や意味を捉え直す
・自分の興味関心と結びつけて考える
・前向きに仕事に取り組む工夫
認知クラフティングには以下のような例があります
認知クラフティングの例 (1) システム開発プロセスの改善 ・システム開発のプロセスが、その会社のルールや慣習で決まりきっているが、 本来の方式や、市場の動向にキャッチアップできているのか不安 ・システム開発のプロセスについて書籍で学習し、会社にフィットするやり方を検討した ・加えてセミナーへも参加して実情の話を聞いて情報をまとめ、システム開発プロセスの見直し提言を行なってみた (2) 管理会計システムの改善 ・勤務しているメーカーの売上・原価・予算等のデータが蓄積されてはいるが、いまいち有効活用されていない ・自身も今後のキャリアとして、DX関連に関わりたいので、勉強も兼ねて自社の強みも活かした形での検討を始めた ・まずメーカーのDXの動向をセミナー・本・雑誌などで勉強し、活用事例を体型的に調査・整理した ・集めた情報をもとに、以下を実践してプロジェクト発足の足掛かりを作った。 ① 経理部門にコンタクトを取り、問題点や手作業箇所のヒアリング ② 競合分析も行った結果、自社としては財務諸表のアウトプットから、製造ラインや間接部門のプロジェクト別などの観点でドリルダウンできるツールが有効と判明 ③ 有望なDXパッケージ製品の情報を整理し、プロジェクトチームの発足を部門長に打診 (3) RPAの学習 ・事務作業で業務に追われる日々を送っていたが、将来的な視点を持っておきたかった ・そこで主に事務作業の自動化をするための技術であるRPAの勉強を、導入側の立場で始めた ・休日にRPAに関する勉強会が都内で定期開催されていたので、参加してみた ・同じような立場の人と交流でき、同様の悩みがあるのを確認でき、導入のヒントを得られた。 ・RPA導入のノウハウを身につけることで、将来的にRPAのコンサル的な仕事ができる可能性も見えてきた
このように認知クラフティングには
「会社での仕事を充実」と、「会社以外でも通じる仕事の充実」という2つの軸で考えていくようになります。
前回言及した「同調圧力」が強い組織もあります。
そういった中でもアイデンティティを持って、会社に依存しない仕事観を持つ為にも、認知クラフティングは必要だと思います。
ポイントは「複数の観点で、自分の仕事に意味づけをしてみる」といったところでしょうか。
人間関係クラフティング
人間関係クラフティングは、周囲の人への働きかけを工夫することで、サポートを受けられやすくすることです
人間関係クラフティングの例 (1) 同じような経験をしている人にアドバイスを求める ・自分が担当している業務について、スキルの習得がいまいちと感じている ・そこで職場の先輩に、技術的な観点でアドバイスを求めた ・アドバイスを受けて、自分なりのスキル習得方法を考えて取り組んでみた (2) 前向きなフィードバックをもらう ・上司との関係性があまり芳しくなく、ネガティブなコミュニケーションが続いていた ・そこで別部署の人とコミュニケーションを取り、互いに前向きにフィードバックをする機会を意識的につくった ・話を聞いて、その部署における対人的な接し方を参考にしてみた ・また、自分の適性がその職場で活かされそうと感じたので、部署異動の検討を始めた (3) 別部署の同期との交流 ・別部署の同期毎日ランチをしていたが、会話があまり無い状況が続いていた ・最近の変化や仕事の状況を聞いてみる事にした。 ・その際、まずは自分の状況を話すことで、情報交換の場になるように工夫した
人間関係区ラフティングをしていくことで、
・現状の人間関係に縛られず、別の可能性を模索していくこと
・心理的安全性を新たな人間関係の中で確保していくこと
が可能になっていきます
クラフティングの進め方
クラフティングは同じ作業をしている人同士が望ましいですが、
人間関係クラフティング以外であれば一人でも効果はあります。
ここでは実際の進め方について、説明したいと思います。
担当業務を整理し、クラフティングする内容を選ぶ
・業務一覧などあれば活用し、業務を10個ぐらいに分ける。
・細かい業務や雑務などは、ある程度のまとまりを意識して業務のカテゴリを作っていく
・その中で、やりがいを感じられる業務と区ラフティングが必要な業務を選ぶ
アイデアだし
・どんなクラフティングが効果があるか考える。現在行えていることも併せて振り返る
・具体的な取り組みの工夫を、リストアップしていく
・ペアで行う場合には、工夫するポイントを話し合い、他人からのアドバイスも入れていく。
クラフティングによる効果を想像する
最後にアイデアを実行することで、自分自身や職場にどんな良い影響があるかを考える。
どうなりそうかを想定して、取り組むことで結果を比較していく事により、目的意識や自己コントロール感が高めることができる。
より応用的なやり方
クラフティングにはより応用的なやり方も紹介されています *2)
現状の業務カテゴリを図示して、そこに「動機」「情熱」「強み」という観点で工夫を加えていきます。
そのアウトプットとして、仕事をよりダイナミックなものにしていく考え方です。
クラフティングの尺度により現状を測定
ジョブ・クラフティング尺度により *3)
実際にどの程度までクラフティングが進んでいるか、その状態をチェックすることができます。
チェックしながら、現在の到達度や他にできることが無いか探すのに、良いツールと言えるでしょう。
詳細はリンク先に記述がありますが、例えば「仕事のリソースを増やすこと」や「仕事の支援のリソースを増やすこと」をチェックしていきます。
チェックしていくことで、目には見えないけれども、仕事をする上で強力な武器が手に入る感覚を得られると思います
「アサーション」により権利の主張をする
アサーションを日常に
相手の立場も尊重しつつ、自分の権利を主張するアサーションを行なっていくと、効果があると思います。
ポイントとしては、自分の心理状態に合わせて、権利と義務のバランスを調整する
詳しくは以前の投稿を参照ください。*4)
心理的安全性が脅かされた時の「対処」をあらかじめ準備しておく
仕事の状況によっては、心理的安全性が確保されない状況もあるかもしれません。
そういった場合には、あらかじめ対処を検討しておくことが必要になってきます。
心理的安全性の脅威への対処例 慢性的に残業が続いており、仕事の棚卸しを上司に打診したい。 ↓ しかし、今この雰囲気で進言すると上司からは、 「とにかく今は仕事を回さなくてはならない。皆頑張っているのに、口を挟まないで欲しい。」と言われそう ↓ もう少し視点を上げ、皆が抱えている仕事の状況を把握し、検討した対応策を上司に打診してみる。 あるいは、自分がそう考えていることを上司に伝えてみる
このように、あらかじめ悪い状況も想定しておくことで、心置きなく自己主張ができるメリットもあります
「権利より義務を果たすべき」という価値観を転換していく
アサーションとは、自分の権利を主張する行為です。
しかしそこに立ちはだかるのが、「権利より義務を果たすべき」という価値観です。
これは多くの職場にあるものだと思います。
しかし今後の時代、権利の主張も義務と同じぐらい行う事で、生産性や創造性を上げていくことが重要という考えになってくるでしょう。
まずは、心理的なハードルを少しづつ取り除いていく事が必要になってくると思います
「指導」と「攻撃」の区別を意識する
緊張と萎縮の違いに注目
緊張と萎縮の違いに注目すると、最適なパフォーマンスが得られると考えられます。
「緊張」は、元々人間がパフォーマンスを最大限発揮するために備わっている能力です。
人間は交感神経を優位にすることで、様々な状況に対応していくことが可能になります。
一方ストレス過多などで緊張の度合いが過ぎると、「萎縮」の状態になります。
萎縮状態はパフォーマンス低下の原因となり、職場環境において不快な状況が続いている、あるいは続くことが予測される状況で発生すると言われています。
自分が程よく緊張状態にあるか、萎縮状態にあるかを観察しながら、状況に応じて心理的安全の確保の必要性を検討すると良いかもしれません、
一方的ではなく双方向なコミュニケーションに修正していく
円滑で効果的なコミュニケーションとは、互いの情報交換が双方向であることが前提になります。
しかし組織や特に上下関係において、コミュニケーションは一方的になりがちです。
まずはそのような不当な状況に気づく事で、心理的安全性の確保が必要になってくると思います。
以下に一方的なコミュニケーションのタイプを例示しました
一方的なコミュニケーションの事例 ◆ 強制的な指示 強制的な指示や命令は、これまでの会社組織では常識的に行われてきた部分があると思います。 しかし、これはやる気の低下を招きかねません。 特に長期的なモチベーション形成においては、強制的なやり方はマイナスとなります。 もちろん急を要する等、やむおえない場合はありますが、その際は後のフォローが重要となります。 ◆ 失敗の原因を本人の能力不足へ帰属 特に上下関係においては、心理的バイアスとして、失敗を部下の能力不足へ帰属する傾向が現れやすいらしいです(原因帰属バイアスとも言われる) そのようなバイアスが働いているかへの気づきがポイントになりますが、そのためにはモチベーションを高められる関係性になっているかをチェックする事になります↓ ・自立性、自主性を重んじているか ・基本的に成長を思いやる態度で接しているか ・感情的になっていないかどうか ◆ 矢継ぎ早的な業務指示 互いの円滑な情報連携が、良いアウトプットを生み出します。 ところが矢継ぎ早にボールを投げるような指示では、混乱を生みパフォーマンスの低下にもなります。
このように双方向性を意識することで、コミュニケーションの状態をチェックすることができると思います。
まとめ:心理的安全性の確保には、仕事の価値観を転換していく
基本的に仕事はチームワークで行うものとなります。
学校や部活でもチームワークが大事とは教わりますが、なぜか社会に出て上下関係に入ると、指示系統は一方的になりがちです。
この矛盾が生じているのは、かつての高度成長期の大量生産時代の名残りと言われることもありますが、現代では時代錯誤と考えて良いでしょう。
同調圧力の元、「どんな指示でも従って行うものが仕事」という価値観では、それはやがて組織的な不正・事業の失敗・人材の流出など、大きな損失にもつながりかない問題だとと思います。
しかしながら、「会社組織からの指示に異を唱えていく」という考え方ではハードルは高いかもしれません。
そこで、仕事は「指示に忠実に行うもの」から、「チームワークを大事にして良いものを作り上げるもの」という考え方をベースに、仕事のあり方を具体的に考えていくことが重要になってくると思います。
参考リンク
1)クラフティングの詳細説明
https://mitsucari.com/blog/job_crafting_method/
2)クラフティング応用
https://corp.en-japan.com/success/12055.html
3)ジョブ・クラフティング尺度
https://www.courage-sapuri.jp/backnumber/10560/
4) 職場の心理的安全性の課題
https://mindhack-lab.com/jobrelationship/psychological-safety/
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