色々な分野においてスキルアップが重要となりますが、心理学の知見を使うことで有効な方法を探ることができます。
前回の記事では、スキルアップのベースとなる「スキーマ」について解説しました。
スキーマを利用することで、効率の良い努力ができるようになります。
前回の記事をまとめると、
・スキーマの定義
特定分野の知識や技能をまとめたもので、人間の認知機能(注意・理解・思考など)と連動する
・スキーマのメリット
スキーマが豊富なほど問題解決能力が高まる
・スキーマの基本的な使い方
階層的に、つまり上位・下位技能の関係を明確に、漏れなく(MECEに)整理する
スキルを体系化でき自信にもつながる
今回は、心理学的な学習モデルを用いて、技能習得に必要なスキーマをつくる方法について見ていきたいと思います。
スキーマの作り方
認知の仕組み:ACT-Rモデルを理解する
スキーマは前述したように、人間の認知機能(知覚、理解、判断、決定、推論など)の枠組みの中で形成されています。
認知機能と技能は密接にかかわっています。
たとえば車の運転においても、「周囲の安全確認」「車体間隔」「経路把握」などの認知機能が使われていますが、これが飲酒などによって低下すると、危険運転になってしまいます。
心理学ではこのような認知と技能の関連を説明するモデルとして、ACT-R(Adaptive Control of Thought-Rational)が提案されています。*2)
これは人間の行動パターンに沿ってスキーマを使うプロセスを示したもので、これに沿って科学的なトレーニングが可能になります。
ACT-Rモデルを使って、効率よくステップアップしていく
このモデルでは、外界の認識、認知機能、能力などの関連が示されています。
そして、このモデルを色々な分野に当てはめていく事で、合理的なトレーニングが可能となります。
各フェーズ(知覚インプット・状況の把握・目的行動の理解・判断・思考)について、
以下をポイントに詳しく見ていきます
・各フェーズで認知機能とスキーマをどのように扱っているか
・各フェーズにスキルアップのために注目すべき内容
【STEP1】 知覚インプット
知覚とは主に視覚・聴覚・触覚などがあります。
運動技能については、これに体性感覚、平衡感覚なども加わります。*3)
これらの知覚を使ってインプットした情報を元に、後述の「状況理解」や「目的理解」が行われます。
ここで説明すべきは、どのように知覚を使ってスキーマ形成をしていくか?という点です。
以下でインプットの主な方法について説明していきます
【方法1】自分の脳タイプによって学習に優位な知覚を使う
脳と心の取扱説明書とも言われ、近年ビジネス分野でも注目されているNLPにおいて、効率的な学習手段として、優位な知覚を利用することが提案されています。*4)
これは、人には以下のような脳タイプがあり、優位な資格には個性があると言われています。
- 視覚優位に情報を処理しやすい人
- 聴覚的に情報を処理しやすい人
- 身体感覚的に情報を処理しやすい人
そのため、例えば聴覚優位であればリスニングを中心としたインプットによって効率的に学習をすることができると言われています。
自分の脳タイプを知ることで、まずは優位な知覚を学習のインプットにしてみるというのが一手段です。
【方法2】複数の知覚を使ってみる
次は複数の知覚 ー 例えば視覚・聴覚・触覚、場合によっては体性感覚や平衡感覚も使って、情報をインプットする手段です。
たとえば本を読んで学習しているときでも、文字を視覚で追うだけだと刺激が弱くなってしまいます*5)
そこで、例えば
- 重要な箇所に線を引いて刺激を増やしてみる
- 重要なところは音読して聴覚を使う
- 実際に状況を浮かべながら読んでみる
といった具合に複数の知覚を使ってみます。
人間には「感覚統合」という機能があり、これはインプットした近く情報を脳内で統合していくことで学習を進めていく性質があります。*6)
この性質を利用して、色々な知覚刺激を増やすことで情報を太く入力していく、というイメージになります
上記では優位な知覚を使うことを上げましたが、
まずは優位な知覚を使って、補助的に他の知覚を使うのも良いでしょう。
例えば視覚が優位なら、図表をベースに学習を進め、重要なところは聴覚も使ってみるという形です。
以上を踏まえ、以下では具体的なインプットの例について説明していきます
知覚インプットの例
事例:アサーションスキル。仕事において過剰な要求が来たときの対処法について 知覚インプットの種類: ・相手の言葉や声のトーン ・相手の表情、しぐさ、困り度など視覚や雰囲気から伝わるもの 知覚インプットのトレーニング: ・「相手の表情を読み取る」のが得意な場合は、そこに注目し容易にインプットできるようにする ・それの情報もできるだけ集めていくトレーニングを重ねていく
事例:数学などの受験勉強や資格勉強における、応用問題を解く場合 知覚インプットの種類: ・問題の図表 ・視覚から入る問題文 ・黙読してみた重要箇所 知覚インプットのトレーニング: ・図表を見るのが得意な場合は、図表をベースに問題文をインプットしていく ・図表に加えて問題文の見落としがちな箇所に、線を引いて入力刺激を増やす
事例:プロジェクトの進捗管理 知覚インプット: ・作業進捗のグラフ ・メンバーからのテキストベースの報告書 ・メンバーから会話で聞いた進捗の実感 知覚インプットのトレーニング: ・テキストを読むのが得意な場合は、テキストからインプットをしていく ・定量的な情報だけでなく、進捗の実感をメンバーから聞くようにする
【STEP2】 状況把握
知覚から入った情報をもとに、次に状況把握を行っていきます。
知覚の情報を元に状況を理解することで、
さらに次のフェーズで行う「目的となる行動の把握」や「思考・判断」に必要な状況を集め、整理していきます。
状況把握のポイント
ここでは以下のような点をポイントに状況把握を進めていきます。
- 様々な情報を整理・統合し、より正確な状況を把握していく
- 5W1Hやその分野の専門知識などを使い、色々な情報を集めていく
- 複雑な状況も理解できるよう、トレーニングを重ねたり効率的な状況把握の方法を身に着けていく
状況把握の例
事例:アサーションスキル。仕事において過剰な要求が来たときの対処法について 把握する状況: ・依頼される仕事量、処理にかかる時間 ・自分のスキルのマッチ度 ・組織体制(他に適任はいないか? 正しい依頼ルートか?など) 状況把握のトレーニング: ・相手の表情を見ながら、依頼内容を理解していく ・自分の作業状況を踏まえて、答えを考える練習をしてみる
事例:数学などの受験勉強や資格勉強における、応用問題を解く場合 把握する状況: ・問題の前提条件 ・問題の難易度や複雑さ ・試験時間、難易度などから割り出した回答に使える時間 状況把握のトレーニング: ・まず問題の難易度や複雑性を把握し、回答するかどうかの見極めを早めに行う ・問題を解く場合は、様々な状況(時間管理・注意点・前提条件)を頭に入れていく ・速読の訓練を積む(視線移動など) *7)
事例:プロジェクトの進捗管理 把握する状況: ・チーム全体と個別の進捗状況 ・メンバーの進捗認識 ・計画値、実績値 ・遅延箇所、ボトルネック箇所 ・個人スキルと業務量のバランスなど 状況把握のトレーニング: ・進捗状況をチェックしながら、メンバーから上がってきた進捗認識とも整合を取りながら、状況を把握していく ・各人の保有スキルや自身の評価をもとに、業務負担の大きさを把握していく ・PIMBOXに従い、スケジュール管理の他、コスト管理や品質管理、スコープ管理にも注意を向けて情報を集める *8)
トレーニングを重ねながら、状況把握の精度を上げていく
ここで行うべき点は、対象のスキーマにおける、状況把握のトレーニングを積んでいくという事になります。
初期段階で漏れなく把握することは難しいですが、経験を積んでいく事で、集めるべき情報の精度が高まっていきます。
トレーニングの中で、自分の認知機能や保有スキルとの結びつきを意識しながら、状況把握を正確かつ、迅速になるよう改善していきます。
またACT-Rモデルをベースとすることで、学習対象を分解し、段階的で戦略的なトレーニングが可能になっていきます。
- インプットのトレーニング
知覚や状況把握重点的に行う - 思考のトレーニング
目的把握や、判断(正しい知識を引き出す)、思考(推論、注意など)を重点的に行う - アウトプットのトレーニング
運動技能や、認知技能(デスクワークや勉強、コミュニケーションなど)のアウトプットの精度に注目してトレーニングを行う
参考リンク
1) 前回記事
https://mindhack-lab.com/skill/skillup-schema/
2) 有斐閣:認知心理学 ACT-R(Adaptive Control of Thought–Rational)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641053748
3) 知覚について
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%9F%A5%E8%A6%9A
4) 【NLP学び方ガイド】なぜ、NLPを活用すると、驚くほど勉強の効率があがるのか?
https://www.nlp.co.jp/000202.php
5) 【聖陵学院】「その習い事、勉強の基盤になってるかも。やみくもに勉強するより、五感を使った学習がいい理由とは?」
https://e-seiryo.com/qa/post-14448/
6) 【Teach For Japan】学校現場で生かす感覚統合
https://teachforjapan.org/entry/training/2019/05/22/kankakutougou-kensyuu/
7) 【日本速読・記憶法セミナー】速読の基本原理
http://www.sokudoku.gr.jp/rapid/outline/
8) 【OBPM Neo】PMBOKを理解しよう:PMBOK とは
https://products.sint.co.jp/obpm/blog/serial-umeda01
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